エンジニアを目指す浪人のブログ

情報系に役立ちそうな応用数理をゆるめにメモします

可分距離空間についてすこし考える

確率論を用いている文献を見ていると,可分(separable)という概念を目にすることがあります.そこでモヤモヤしてしまうことが多いので,どのようなものか調べることにしました.可分性は位相空間に対して定義される性質ですが,歴史的には初めて導入されたときは距離空間に関する概念であったようです(文献[2]をぜひ参照してください).

本記事でも距離空間の可分性について考えます.文献[1]には可分の定義として以下の記述があります(和訳しています).

{\displaystyle (X,d)}距離空間とする.ボレル {\displaystyle \sigma}-加法族 {\displaystyle \mathcal{B}=\mathcal{B}(X)}{\displaystyle X} 上の全ての開集合を含む最小の {\displaystyle \sigma}-加法族である.{\displaystyle \mathcal{B}} の要素は {\displaystyle X} のボレル集合と呼ばれる.距離空間 {\displaystyle (X,d)} は加算な稠密部分集合をもつとき,すなわち {\displaystyle \overline{ \{ x_1,x_2,\cdots \} }=X} となるような {\displaystyle x_1,x_2,\cdots} が存在するとき可分という( {\displaystyle \bar{A}}{\displaystyle A \subset X} の閉包とする).

 

 同じく上記の直後に,役に立ちそうな補題があるのでメモします.証明は可分のイメージを深めるものだと思います(単なる和訳ではなく説明を追加しています)( {\displaystyle \sigma}-加法族については過去記事も参考になります).

補題 1.1.
{\displaystyle X} が可分距離空間ならば,{\displaystyle \mathcal{B}(X)}{\displaystyle X} の開(閉)球により生成される {\displaystyle \sigma}-加法族に等しい.
証明.
{\displaystyle \mathcal{A} \equiv X  \mbox{の開(閉)球により生成される}\sigma\mbox{-加法族}}
とする.{\displaystyle \mathcal{A} \subset \mathcal{B}} は明らか.次に {\displaystyle D}{\displaystyle X} の加算な稠密部分集合,{\displaystyle U \subset X} を開集合とする.{\displaystyle x \in U} について,中心 {\displaystyle x },半径 {\displaystyle r } の開(閉)球 {\displaystyle B(x,r) \subset U } となるように {\displaystyle r \gt 0, r \in \mathbb{Q} } をとり,{\displaystyle y_x \in D \cap B(x,r/3) } をとる.すると {\displaystyle x \in B(y_x,r/2) \subset B(x,r) } となる.{\displaystyle r_x \equiv r/2 } とおくと
{\displaystyle U = \bigcup \{ B(y_x,r_x): x \in U \} \in \mathcal{A} }
となる.最後の {\displaystyle \in } は,{\displaystyle y_x } のとり方より加算和であることからしたがう.{\displaystyle U \subset X } は自由にとれるので {\displaystyle \mathcal{B} \subset \mathcal{A} } がいえる.

 可分性により集合をある種の加算和で表現可能となることがわかります.

 

以上,可分について考えてみました.関連する話題として1つ例を挙げます.確率解析でよく目にするウィナー空間は可分距離空間であり,ボレル集合体がシリンダー集合により生成されていることの証明に可分性を用います.とはいえそれはこの記事の範囲を超えるので,ここで終わりにすることにします.


参考文献
[1] Leiden University  Onno van Gaans先生のセミナー資料 http://www.math.leidenuniv.nl/~vangaans/semEEPSCE_12_4.pdf
[2] 静岡大学 大田春外先生のページ 質問#01039 http://www12.plala.or.jp/echohta/top/QA/QA004.html