行列のランクプリンシプルの定義をまとめる
勉強を進めていて,行列に対するランクプリンシプル(rank principal)という性質を知りました.見慣れない定義でモヤモヤしてしまったので,Horn and Johnson(2013)を参考にしてまとめることにしました.
記法の説明をします.
行列 と添字集合(index set) を考えます. は に指示される( の)行と に指示される( の)列からなる(小)行列とします. は に指示される( の)行からなる行列, は に指示される( の)列からなる行列となります.
準備をします.
行列 , 行列 として以下のような 行列 を考えます.
が正則のとき, ( はフルランクなので) が成り立ちます.実は逆も成り立ちます.以下の事実を証明なしで用います(Horn and Johnson(2013)には証明があります).
事実1.
のとき, は正則である (0.7.6.1)
本記事の目的であるランクプリンシプルの定義は以下です.
定義.
行列 が正則な 主小行列(principal submatrix)(文献[2]にあります)をもつとき, はランクプリンシプルである,という.
この定義に関連して,以下の事実が成り立ちます.(証明ではなく)具体例を用いて説明します.
事実2.
(0.7.6.3)
をみたすような添字集合 が存在するとき(すなわち 個の線形独立な行が存在し,それと同じ添字集合についての列も線形独立のとき), はランクプリンシプルとなり, は正則である.
説明.
(0.7.6.3) (0.7.6.1)が示せればよい.
行列 を以下とする.
の場合を考え, 行列 を以下のようにおく.
第1,3,5行と第1,3,5列を取り出した小行列のランクについてそれぞれ以下が成り立つ(基本変形してもランクは変わらないことを用いている).
これらのことから,(0.7.6.3)が成り立つとき(0.7.6.1)が成り立つことが(この例について)確認できた.
次の事実も成り立ちます.
事実3.
エルミート行列はランクプリンシプルである.
証明.
エルミート行列 はあらゆる添字集合 について が成り立つ.このことと事実2.を併せればよい.(証明終わり)
以上,行列のランクプリンシプルの定義をまとめました.
参考文献
[1] Horn, R.A., and Johnson, C.R. (2013), Matrix Analysis(Second Edition), Cambridge University Press.
[2] Wikipedia Matrix (mathematics) のページ https://en.wikipedia.org/wiki/Matrix_(mathematics)#Submatrix