エンジニアを目指す浪人のブログ

情報系に役立ちそうな応用数理をゆるめにメモします

行列のランク落ち,列フルランク,行フルランク,フルランクそれぞれのときの4つの基本部分空間を図示する

本記事は以下の過去記事の結果を用います.

4つの基本部分空間について考える - エンジニアを目指す浪人のブログ

行列における単射,核(カーネル)が零ベクトルのみ,列フルランクは同値であることを証明する - エンジニアを目指す浪人のブログ

行列における全射,左零空間が零ベクトルのみ,行フルランクは同値であることを証明する - エンジニアを目指す浪人のブログ


冒頭の過去記事を書くことが,行列のランク落ち(rank deficient),列フルランク(full column rank),行フルランク(full row rank),フルランク(full rank)とは何を意味するか,行列は縦長か横長か正方か,そのとき零空間(nullspace)や左零空間(left nullspace)はどうなっているか,あるいは単射(injective)(one-to-one)や全射(surjective)(onto)との関係はどうなっているか,を考える契機になりました.それらを非常に重要に感じたので,考えた内容をまとめた図を描いておくことにしました.

{\displaystyle m \times n } 行列 {\displaystyle A, \ \mathrm{rank} A = r } とします.記号を準備します.

{\displaystyle \;\;\; C(A^T)  \;\;\; } {\displaystyle A } の行空間
{\displaystyle \;\;\; C(A) \;\;\;\;\; } {\displaystyle A } の列空間
{\displaystyle \;\;\; N(A) \;\;\;\;\; } {\displaystyle A } の零空間
{\displaystyle \;\;\; N(A^T) \;\;\; } {\displaystyle A } の左零空間


以下の事実が成り立ちます.冒頭の過去記事(4つの基本部分空間)にあります.

事実.
{\displaystyle \;\;\; \mathbf{R}^n = C(A^T) \oplus C(A^T)^{\perp} }
{\displaystyle \;\;\;\;\;\;\;\;\; = C(A^T) \oplus N(A)   }

{\displaystyle \;\;\; \mathbf{R}^m = C(A) \oplus C(A) ^{\perp} }
{\displaystyle \;\;\;\;\;\;\;\;\; = C(A) \oplus N(A^T)  }


注意.
行列 {\displaystyle A \;\; : \mathbf{R}^n \to \mathbf{R}^m, \; A \;\; : x \mapsto Ax } は線形写像である.
行列 {\displaystyle A^T: \mathbf{R}^m \to \mathbf{R}^n, \; A^T  : y \mapsto A^T y } は線形写像である.


本記事の目的に進みます.行列のランク落ち,列フルランク,行フルランク,フルランクそれぞれのときの4つの基本部分空間を図示します.また,連立一次方程式 {\displaystyle Ax=b } の解がどうなっているかについても文献[1]を参考にして併記しておきます.


パターン1. (ランク落ち)
{\displaystyle Ax=b }{\displaystyle b \notin C(A) } のとき解をもたず,{\displaystyle b \in C(A) } のとき解は無限に存在する.{\displaystyle n - r } 個の自由変数をもつ.
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パターン2. (列フルランク)
{\displaystyle Ax=b }{\displaystyle b \notin C(A) } のとき解をもたず,{\displaystyle b \in C(A) } のときただ一つの解をもつ.
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パターン3. (行フルランク)
{\displaystyle Ax=b } はあらゆる {\displaystyle b \; ( \in C(A) = \mathbf{R}^m) } について解をもち,解は無限に存在する.{\displaystyle n - m } 個の自由変数をもつ.
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パターン4. (フルランク)
{\displaystyle Ax=b } はあらゆる {\displaystyle b \; ( \in C(A) = \mathbf{R}^n) } についてただ一つの解をもつ.
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以上,行列のランク落ち,列フルランク,行フルランク,フルランクのときの4つの基本部分空間を図示しました.


参考文献
[1] Massachusetts Institute of Technology Gilbert Strang先生のノート https://ocw.mit.edu/courses/mathematics/18-06sc-linear-algebra-fall-2011/ax-b-and-the-four-subspaces/solving-ax-b-row-reduced-form-r/MIT18_06SCF11_Ses1.8sum.pdf