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情報系に役立ちそうな応用数理をゆるめにメモします

半正定値行列が正定値であるための必要十分条件は正則であることを証明する

勉強を進めていて,Horn and Johnson(2013)に記述がある,半正定値行列における正定値性と正則性との関係について重要に感じたので,その内容と証明をメモすることにしました.


問題を設定するため,いくつか準備をします.

Horn and Johnson(2013) Definition 4.1.9.から引用します(Definition 4.1.11.に実対称行列に対するほぼ同様の定義があります(過去記事にあります)).ベクトルや行列に対する {\displaystyle * } は共役転置を意味します.

定義 4.1.9. {\displaystyle n \times n } 行列 {\displaystyle A } は,全ての零ベクトルでない {\displaystyle x \in \mathbb{C}^n } について {\displaystyle x^* A x } が実数で正の値となるとき正定値(positive definite)という; 全ての零ベクトルでない {\displaystyle x \in \mathbb{C}^n } について {\displaystyle x^* A x } が実数で非負の値となるとき半正定値(positive semidefinite)という; 全ての {\displaystyle x \in \mathbb{C}^n } について {\displaystyle x^* A x } が実数で {\displaystyle y^* A y \lt 0 \lt z^* A z } を満たすベクトル {\displaystyle y,z \in \mathbb{C}^n } が存在するとき不定値(indefinite)という.


よく知られている以下の2つの事実を証明なしで用います(それぞれ例えば文献[3][4]にあります).

事実1.
正定値ならば正則である.

 

事実2.
正則行列 {\displaystyle A} についての同次方程式 {\displaystyle Ax = 0 } は自明解 {\displaystyle x = 0 } のみを持つ.


以上の設定のもとで,本記事の目的に進みます.

事実3.
半正定値行列 {\displaystyle A } が正定値であるための必要十分条件は正則であることである.


証明.
事実1.より,正定値ならば正則である.

逆を示す.事実2.より,{\displaystyle A } は正則であるとすると,方程式 {\displaystyle Ax = 0 } は自明解 {\displaystyle x = 0 } を持つが {\displaystyle x \neq 0 } をみたす非自明解は持たない.したがって {\displaystyle x \neq 0 } ならば {\displaystyle Ax \neq 0 } であり,さらに {\displaystyle x \neq 0 } ならば {\displaystyle x^*Ax \neq 0 } を得る.このことと半正定値であることから,正定値である.(証明終わり)

 

 以上,半正定値行列が正定値であるための必要十分条件は正則であることを証明しました.

 

参考文献
[1] Horn, R.A., and Johnson, C.R. (2013), Matrix Analysis(Second Edition), Cambridge University Press.
[2] Harville, D.A.(2008), Matrix Algebra From a Statistician's Perspective, Springer.
[3] Wolfram MathWorld Positive Definite Matrix のページ http://mathworld.wolfram.com/PositiveDefiniteMatrix.html
[4] Wikipedia System of linear equations のページ https://en.wikipedia.org/wiki/System_of_linear_equations