本記事は以下の過去記事で得た結果を用います.
最小二乗法の基礎をまとめる - エンジニアを目指す浪人のブログ
グラム行列についての定理を証明する - エンジニアを目指す浪人のブログ
勉強を進めていて,多目的最小二乗法(multi-objective least squares method)(重み付き最小二乗法(weighted least squares method))について知りました.応用でよく使われているようなので,その内容をまとめておくことにしました.Boyd and Vandenberghe(2018)の15章1節をベースにしています.
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目次
0. 準備
1. 多目的最小二乗法
1.1. 多目的最小二乗問題とただ一つの解
1.2. スタックド行列の列の線形独立性
[ 0. 準備 ]
記号を準備します.
単位行列
次元ベクトル
次元ベクトル
行列 行列
ベクトル ベクトル
正の実数
通常の内積 (性質は文献[2]にあります)
(ユークリッド)ノルム (性質は文献[3]にあります)
以下を準備します.
(0.1)
(0.2)
(0.3)
(0.4)
(0.1)の はスタックド行列(stacked matrix)といいます.
(0.3)の は重み付きグラム行列(weighted gram matrix)といい,これ自体冒頭の過去記事(グラム行列)にあるグラム行列です. もグラム行列です.
本記事では以下を仮定します.
仮定.
(0.1) は縦長の行列( )
(0.2) ( の列 は線形独立)
これは列フルランクであることと同値です.
[ 1. 多目的最小二乗法 ]
[ 1.1. 多目的最小二乗問題とただ一つの解 ]
多目的最小二乗問題のベースである最小二乗問題(least squares problem)は,目的関数 を最小にする を探索する問題です.冒頭の過去記事(最小二乗法)にあります.
以下の複数の目的関数を考えます.
これらのすべてを可能な範囲で小さくする を探索するとします.そのために以下の加重和目的関数(weighted sum objective)を考えます. は(正の)重みです.
(1.0)
この を最小にする を探索する問題を多目的最小二乗問題(multi-objective least squares problem)といい,以下のように定式化します.
(1.1)
この問題は仮定.より冒頭の過去記事(最小二乗法)の最小二乗問題(1.1)に帰着でき,ただ一つの解は同記事の(2.1.3)と同様にして以下となります.
(1.2)
(0.3)(0.4)
[ 1.2. スタックド行列の列の線形独立性 ]
が線形独立な列をもつことと, のそれぞれが線形独立な列をもつことは同値ではありません.仮定.(0.2)に関連して以下の事実が成り立ちます.
事実.
のうち少なくとも一つ(それは縦長の行列でなければならない)が線形独立な列をもつ,あるいは同じことであるがいずれかの について をみたす零ベクトルでない が存在しないとき,重み付きグラム行列 は正則である.またこのとき は線形独立な列をもつ.
証明.
冒頭の過去記事(グラム行列)定理 7.2.10.(a)より,重み付きグラム行列(0.3)の は半正定値である.いま について が線形独立な列をもつとすると,同記事定理 7.2.10.(b)より は正定値である.したがって のとき であり のとき である.これらを用いると以下を得る.
したがって は正定値であり,よって正則である.さらに同記事定理 7.2.10.(b)より は線形独立である.(証明終わり)
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以上,多目的最小二乗法の基礎をまとめました.
参考文献
[1] Boyd, S., and Vandenberghe, L. (2018), Introduction to Applied Linear Algebra: Vectors, Matrices, and Least Squares, Cambridge University Press.
[2] Wolfram MathWorld Inner Product のページ http://mathworld.wolfram.com/InnerProduct.html
[3] Wikipedia Matrix norm のページ https://en.wikipedia.org/wiki/Matrix_norm
おまけ
[1] へのリンク http://vmls-book.stanford.edu/vmls.pdf